トランプ政権、ロシアへの制裁・関税を撤回し原油価格が下落
トランプ米大統領は2026年10月19日、ロシアに対する制裁と関税を解除する大統領令に署名した。これを受けブレント原油先物は前日比1.98ドル(1.80%)安の1バレル107.88ドルで取引され、WTIも1.16ドル(1.14%)安の100.25ドルとなった。同時にトランプ氏はウクライナとロシアのエネルギー停戦(製油所への攻撃停止)が「直ちに」開始されたと発表しており、これにウクライナのゼレンスキー大統領は歓迎しつつも、ロシアが引き続きウクライナ側を攻撃していると指摘した。
要点
- 10月19日、ブレント原油先物は1.80%安の107.88ドル、WTIは1.14%安の100.25ドルで取引された
- トランプ氏は前日10月16日に、リンジー・グラハム議員共同提出の法案に基づく対ロシア強化制裁を撤回する大統領令に署名した
- トランプ氏はウクライナとロシアのエネルギー停戦を「直ちに」開始と発表し、対象は両国の製油所への攻撃のみとされる
- 米エネルギー長官クリス・ライト氏は、ロシアがディーゼル輸出を得るには戦闘を縮小する必要があると説明し、対モスクワ圧力を強めると主張した
- 野党議員を含む米上院議員7人は、ロシア産ディーゼルの輸入許可は米法律違反だとして撤回を要求した
- ゼレンスキー氏は許可数量を月30万〜50万トンと説明し、代わりにウクライナ産ディーゼルを米国が調達すべきだと主張した
- トランプ政権は、ロシアのエネルギー施設への攻撃が続けば、ウクライナ向け武器の調達と情報共有を停止する可能性があると警告した
なぜ重要か
グラハム法に基づく強化制裁の撤回とロシア産ディーゼルの輸入規制緩和は、戦争下における米国の対ロシア政策の大きな方針転換を意味する。原油市場は発表直後に反応し、ブレントとWTIがともに下落した。同時に発表されたエネルギー停戦(製油所攻撃のみの停止)は、戦闘が続く中で極めて限定的なデ・エスカレーションの枠組みを新たに重ねるものだ。さらにトランプ政権は、ロシアのエネルギー施設への攻撃が続くなら、ウクライナへの武器調達と情報共有の停止を含む圧力をかけると警告している。支持者はモスクワへの追加圧力と位置づけ、批判側はロシアの戦費調達を可能にすると批判しており、同一政策の評価が真っ二つに割れている点でも重要である。
何が起きたか
10月19日、石油価格は下落した。ブレント原油先物は04:27GMT時点で1.98ドル(1.80%)安の1バレル107.88ドル、WTIは1.16ドル(1.14%)安の100.25ドルとなった。背景にはトランプ米大統領がロシアに対する制裁と関税を撤回する大統領令に署名したことがある。トランプ氏は前月、圧力を受けた議員の要請に応じてロシアへの圧力を強める目的で成立したグラハム法を署名していたが、その数週間後の10月16日に、リンジー・グラハム議員らが共同提出した制裁強化条項の撤回を命じる大統領令に署名した。トランプ氏はウクライナとロシアの間のエネルギー停戦が「ただ今この瞬間から」始まり、両国が合意したと発表し、その対象は両国の製油所への攻撃のみに限定されるとされた。一方でゼレンスキー氏はこの合意を歓迎しつつも、ロシアがウクライナのエネルギーインフラへの攻撃を続けていると指摘した。野党議員を含む米上院議員7人は、ロシア産ディーゼルの輸入許可は米法に違反するとして即時撤回を求めている。
ウクライナメディアの見方
ウクライナの反応は二層に分かれている。ゼレンスキー氏はトランプ氏の発表を支持する姿勢を示しつつ、ロシアの実攻撃が継続している現実を強調している。一方、ゼレンスキー氏は制裁緩和によって米国が容認した数量は月30万〜50万トンにとどまり、世界の月消費量1億2千万トンと比べて微量だと指摘。なぜ米国がウクライナのディーゼルを調達しないのかと問い、ウクライナのエネルギーインフラ防護の保証と引き換えにディーゼル供給契約を結ぶ用意があると提案した。同氏はまた、自国のエネルギーインフラへの攻撃を抑止する代わりに、ロシアがディーゼルを輸出できる環境を整備する米国の決定を「明白な弱さ」と繰り返し批判している。ウクライナの立場からすれば、ロシアに経済的余地を与えながら、自国のエネルギー施設への攻撃を抑止する抑止力まで手放すことに批判的となる。
海外メディアの見方
国際的な報道では二つの枠組みが見られた。サチデヴァ氏(Phillip Nova)はトランプ氏の動きを米中間選挙前の原油価格抑制に向けた「必死の試み」と位置づけ、ウォーターア氏(KCM Trade)はロシア産燃料輸出の増加余地があるとしつつも、相反するシグナルが市場の不確実性を高めていると分析した。これに対しライト米エネルギー長官はこれを市場管理策ではなくモスクワへの圧力強化策と位置づけ、ロシアがディーゼルを輸出するには敵対行為の縮小以外に選択肢がない状況を生み出していると主張した。さらに7人の米上院議員(共和党・民主党両党)が法律違反だとして撤回を求めており、米国内でも理解が一致していない。
報道の食い違い
情報源の不一致は主に二つある。第一に、グラハム法に基づく制裁の撤回がモスクワへの圧力を強めるか弱めるか。米エネルギー長官ライト氏は、ロシアが製油所攻撃を抑えなければディーゼル輸出を確保できない状況が生まれ、攻撃縮小のインセンティブになると主張。一方でゼレンスキー氏を含む批判者は、ロシアに追加資金を流し込むことでプーチン氏を強化するだけだと主張。第二に、トランプ氏の動きを市場対応と見るか対露外交圧力と見るかで評価が分かれる。サチデヴァ氏は中間選挙前の価格抑制策と評したのに対し、ライト長官は同じ決定をモスクワへの圧力と位置づけており、同一の政策が相反する文脈で語られている。
背景
2022年、米国議会はウクライとの戦争への資金供与を防ぐ目的でロシア産エネルギー資源の輸入を禁止していた。トランプ前月にはこのグラハム法を成立させていたが、ロシアに対する圧力を強めるはずだった制裁強化は実際には適用されないまま撤回されるに至った。原油価格上昇の背景要因としては、ペルシャ湾岸諸国へのイランによる石油施設攻撃と、ホルムズ海峡での石油タンカー攻撃が指摘されている。またウクライナ国内には稼働率の高い製油所が一つしかなく、これもロシアの攻撃対象となってきており、対照的にロシアには広範な製油所網が存在する。