米ウクライナ交渉チーム刷新か――FT報道にホワイトハウスが「完全なフェイクニュース」と反論
英紙フィナンシャル・タイムズは、バイデン政権がロシア・ウクライナ和平交渉で米国特別代表のスティーブ・ウィトコフと娘婿のジャレッド・クシュナーの役割を減らし、CIA長官のジョン・ラトリフを前面に立てる案を検討していると報じた。ホワイトハウスの報道官アンナ・ケリーは9日、FT報道について自身のX(旧ツイッター)で「完全なフェイクニュースだ」と反発し、トランプ大統領が両氏を全面的に信頼していると述べた。バイデン政権はまだ最終決定を下していないとされる。
要点
- FTは8月25日にラトリフCIA長官がモスクワを訪問したと確認済みと報じた
- ホワイトハウスは特別代表ウィトコフとクシュナーの関与縮小を検討中とFTが報じた
- ラトリフ氏が米露ウクライナ間の「シャトル外交」でより大きな役割を担う可能性が指摘された
- ケリー報道官(ホワイトハウス)は9日、FT報道を「完全なフェイクニュース」とXで投稿した
- トランプ氏はラトリフ氏のモスクワ訪問について「半ばroutine(定例的)」と述べて過小評価した
- 6日にゼレンスキーが3国協議復帰の用意があると表明、8日にUAE・スイス・トルコを提案
- ペスコフ報道官(クレムリン)はプーチン氏とラトリフ氏の会談予定を公式に否定した
なぜ重要か
米国が率いるウクライナ戦争終結のための外交努力の人的枠組みが、再編される可能性が浮上した。これはモスクワ・キーウとの交渉チャネルや米国が提示する提案の内容に直接影響する。さらに、ホワイトハウスが公式に否定している点をめぐり、情報源の信頼性と米国政策の実際の状態が問われている。FTが報じたラトリフ氏とウィトコフ氏の主導権争いは、米国側内の意見不一致を反映しており、約1年半にわたってほぼ進展のない交渉の打開策として欧州各国が変化を歓迎していると伝えられる。
何が起きたか
フィナンシャル・タイムズは9月8日前後、米ホワイトハウスがウクライナの和平交渉担当チームの構成見直しを検討していると報じた。同紙は5人の情報源を引用し、特別代表のスティーブ・ウィトコフ氏とドナルド・トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏の役割を縮小し、CIA長官ジョン・ラトリフ氏をロシア・ウクライナ間の「シャトル外交」でより前面に出す案が議論されていると伝えた。ラトリフ氏は8月25日に訪ロし、ロシア情報機関高官とウクライナ、イランでの戦争や欧州への「ハイブリッド」脅威について協議。米紙WSJやPoliticoによれば、同氏はバルト諸国を含むNATOへの攻撃の可能性についてプーチン氏に警告し、NATO条約第5条への米国の関与を再確認したとされる。
これに対しホワイトハウス報道官アンナ・ケリー氏は9日、Xで声明を発表し、「FTの記事は完全なフェイクニュースだ」と述べ、トランプ氏がウィトコフ氏とクシュナー氏を「全面的に信頼している」と主張。ケリー氏はまた、FTが回答期限前に記事を出稿したうえ、ホワイトハウスがコメントを拒否したと虚偽の記述をしたと批判した。トランプ氏自身もラトリフ氏のモスクワ訪問について「半ば定例的」と表現し、緊急性は否定した。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、プーチン氏とラトリフ氏の会談が予定されていなかったと否定し、8日のプーチン・トランプ電話会談で交渉団の変更は議題にならなかったと述べた。一方、ゼレンスキー大統領は6日、キーウでウィトコフ氏とクシュナー氏と行った共同記者会見で、ウクライナが戦争終結に向けた3者協議に復帰する用意があると表明。8日には次回3者会合の開催地をUAE、スイス、トルコと提案。ウクライナ外務省のゲオルヒーイ・チィヒー報道官は同日、ゼレンスキー氏とトランプ氏の首脳会談が9月下旬に予定されていることも発表した。
ウクライナメディアの見方
ウクライナメディアは、FT報道を軸にウィトコフ氏とクシュナー氏の役割縮小とラトリフ氏の存在感増大を強調しつつ、ホワイトハウスの正式な否定も大きく取り上げた。報道ではさらに、ゼレンスキー氏が6日のキーウでの米特使との会談後に3国協議復帰の用意を表明したことや、8日にUAE・スイス・トルコが新たな開催地候補として挙がったこと、ゼレンスキー氏とトランプ氏の9月後半の会談がすでに合意済みであることが前面に出されている。3人のウクライナ高官はキーウがラトリフ氏、ウィトコフ氏、クシュナー氏と良好な実務関係を維持しており、誰が交渉を担うかについて優先する人物はいないと語り、「問題はロシア側にある」との見解を示している。
海外メディアの見方
ウクライナ国外の報道は、提供された資料の中ではアゼルバイジャan's APA通信社(英語)の概要のみが含まれる。同社はFT報道を要約し、ウィトコフ氏とクシュナー氏の役割縮小の可能性に焦点を当てたが、ホワイトハウスの公式な否定やウクライナ側の外交的動きには踏み込んでいない。したがって、国際的なフレームは人員刷新の側面に偏り、米側の反論やキーウの対応は前景化されていない。
報道の食い違い
FTは「ホワイトハウスがウィトコフ氏とクシュナー氏の関与を縮小し、ラトリフ氏の役割を拡大する計画を検討中」と5人の情報筋を引用して報じた一方、ホワイトハウス報道官アンナ・ケリー氏はこれを「完全なフェイクニュース」と公に否定し、トランプ氏が両氏を全面的に信頼していると述べた。ケリー氏はFTが返答期限前に記事を掲載し、ホワイトハウスがコメントを拒否したと虚偽表示したと主張し、FTを「左派系の黄色い媒体」と呼び、真相への関心が薄いと批判した。
またFTは2人の情報筋を引用し、プーチン氏が当初ラトリフ氏と会談する予定だったが、ラトリフ氏がロシアの軍事状況について率直な評価を示したことで会談をキャンセルしたと伝えた。これに対しクレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、こうした会談自体がそもそも計画されていなかったと公式に否定している。
背景
米国主導のロシア・ウクライナ戦争終結に向けた交渉は、2月末以降トランプ政権がイランとの戦争に焦点を移したことから中断状態にあった。8月25日にはCIA長官のラトリフ氏が訪ロし、米情報機関長官が和平外交に自ら参加するのは初めてとされる。訪ロ中、ラトリフ氏はNATOへの攻撃やハイブリッド脅威についてロシア側に警告したとされる。その後、約1週間遅れてウィトコフ氏とクシュナー氏がモスクワとキーウを歴訪。9月6日にはキーウでゼレンスキー氏との共同記者会見が実現し、3国協議への復帰用意が確認された。8日にはトランプ氏がプーチン氏と電話会談を行い、戦争の早期終結を働きかけている。