欧州委員会大統領、欧州安保理事会とNATO第4条類似の「緊急安保プロトコル」構想を提案
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン大統領は16日の「欧州連合の状況」演説で、ウクライナや英国、ノルウェー、カナダなどのパートナーからなる欧州安保理事会の創設と、NATO第4条を補完する「欧州安保戦略」及び「緊急安保プロトコル」の提案を発表した。背景にはサイバー攻撃や破壊工作、無人機の侵入など「ハイブリッド」ではない水準に達した脅威の増大と、トランプ米政権下での米欧関係の不安定化がある。
要点
- フォン・デア・ライエン欧州委員長が16日、ストラスブールの欧州議会で「欧州連合の状況」演説を実施
- EU首脳とウクライナ、英国、ノルウェー、カナダなどの同調パートナーを含む欧州安保理事会の創設を提案
- NATO第4条を補完する「欧州安保戦略」と「緊急安保プロトコル」をカヤ・カラス外務上級代表と共同発表へ
- 1加盟国が発動すれば全加盟国が招集され、武力攻撃未満の脅威に対する欧州の対応を調整
- 演説の直前にはデンマークでのロシア艦によるヘリ照射、リトアニアでのロシア無人機墜落、ライプツィヒ近郊での無人機事案が発生
- ウクライナ向けには米国製パトリオット迎撃ミサイルの購入と「フレイヤ」計画に基づく共同防空システムの構築を約束
- トランプ米大統領によるグリーンランド併合の脅しと欧州駐留米軍の再編が提案の背景として言及された
なぜ重要か
NATO外の独自安保協議メカニズムと、ウクライナを含む多国間安保フォーラムの創設は、EU安保政策の制度的転換点を示す。提案はロシアのハイブリッド脅威の日常化と、米国の欧州政治安定性と組への関与低下認識を直接の動機としており、ウクライナに対してはパトリオット迎撃ミサイル購入と「フレイヤ」計画に基づく共同防空という具体的な成果も提示された。
何が起きたか
欧州委員会のフォン・デア・ライエン大統領は16日、欧州議会での「欧州連合の状況」演説で、ウクライナ、英国、ノルウェー、カナダなどと同調するパートナーとEU首脳が参加する欧州安保理事会の創設を提案した。またカヤ・カラス外務上級代表と共同で、NATO第4条を補完する「欧州安保戦略」と「緊急安保プロトコル」を発表する意向を表明した。このプロトコルは1加盟国が発動すれば全加盟国が対応を調整するために集合する仕組みで、武力攻撃には至らないハイブリッド脅威に対応する。フォン・デア・ライエン氏はサイバー攻撃、放火、破壊工作、無人機侵入といった脅威が日々増大し「ハイブリッド」でなくなりつつあると指摘。演説に先立つ週にはデンマークでのロシア艦による軍用ヘリ照射(14日)、リトアニアでのロシア無人機墜落(15日)、ポーランドでの事案、ライプツィヒ近郊での無人機事案が発生していた。ウクライナ向けには米国製パトリオット迎撃ミサイルの購入と、「フレイヤ」計画に基づくEUとの共同防空システム構築が約束された。背景にはトランプ米大統領によるグリーンランド併合の脅しと欧州駐留米軍再編の検討が挙げられた。
ウクライナメディアの見方
ウクライナ側報道は、提案された欧州安保理事会にウクライナが正式パートナーとして位置づけられたこと、また「フレイヤ」計画に基づくパトリオット迎撃ミサイル購入とEUとの共同防空システムという具体的成果が含まれることを大きく報じた。フォン・デア・ライエン氏の提案はプーチンとトランプへの対抗として枠組み化され、EPP院内会派のヴェーバー氏による「27の盆栽軍」加盟や共同指揮構造への支持も、ウクライナの欧州安保への統合を後押しする政治的意思の表れとして報じられた。
報道の食い違い
ガラツィの住宅にロシア製無人機が落下した事案についてNATO第4版に基づく協議が正当化される基準を満たしていると発言したのは誰かについて、殆どの報道はルーマニアのオアナ・ツォイ外相の声明とする一方、一部の報道はウクライナのシビハ外相の声明としている。
背景
NATO第4条は、加盟国が領土一体性への脅威を認識した際に他加盟国との協議を求めることを認める仕組みで、第5条発動の前段階と位置づけられる。欧州安保理事会の構想は1980年代から繰り返し提案されてきた。2003年のイラク戦争後のEU内亀裂を受けて再浮上し、2017年にはユンカー欧州委員長(当時)とマクロン仏大統領が主導したが、英国の反対で頓挫していた。最近の事案としては、9月3日のデンマーク情報当局によるロシアのデンマーク防衛産業に対する破壊工作計画の判明、9月14日のロシア艦によるデンマーク軍ヘリ照射、9月15日のリトアニアでのロシア無人機墜落(イタリア軍戦闘機が撃墜)、ライプツィヒ近郊での無人機事案がある。ドイツ首相フリードリヒ・メルツ氏の政党とルーマニア外相は別個にNATO第4条の発動を求めていた。